カメのひとりごと

ニホンイシガメのカメ子が、カメ目線でとらえた人間社会をおもしろおかしく書いています。

第127話 前科一犯

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10月某日、吾輩とカメ輔のための朝食タイムが始まった。朝食といっても、主人が市販のマメ(配合飼料)を吾輩とカメ輔の水槽の中にバラ撒いているだけである。

もちろん、その順番は、先輩の吾輩からである。

主人は、今日も、いつものように、隣の水槽にいるカメ輔の食事の様子を実況生中継しているので、耳を澄まして聞くことにした。

すると、カメ輔は、主人がいるところに近寄り、水槽の壁をよじ登ろうとしている。

しかも、首を長く伸ばして、「頂戴、頂戴」をしているようである。こんなことは、今までになかった光景だ。

これまで、カメ輔は、そんなことは決してしなかった。

いや、できなかった。

カメ輔は、水槽の壁を登らないうちに、マメを求めて主人に近寄るが、主人が顔を近づけると首を引っ込めて、その場所に立ち止まっていた。

ところが、今度は違っていた。主人の顔と水槽の壁をよじ登っているカメ輔の顔の距離が10cm位になったところで、ようやく、カメ輔は伸ばしていた首を引っ込めた。

そして、主人は言った。

主人:お~カメ輔は、ようやく、わしに慣れてきたようだ。随分時間がかかったなぁ。

それを聞き、吾輩も思った。

カメ子:そうかもね。カメ輔もようやく大人になったようだ。

吾輩は、親になった気持ちでカメ輔の成長を嬉しく思った。

しばらくして、朝食タイムは終わり、吾輩は、運動がてらに、ある事を始めた。

それは「水槽越え」である。吾輩の長年の夢である、水槽からの脱出である。

さっき、カメ輔から元気をもらったので、今日は成功するかもしれない。さてと、足をどこの位置に置いて水槽の壁をよじ登ろうかな?今日は水槽の壁直下の隅ぎりぎりの所を足場にしよう。こうすれば、もしかして「水槽越え」ができるかもしれない。我ながら冷静で賢い判断だ。さっそく、吾輩は水槽の壁をよじ登った。さらに、前足が水槽の壁の上部にひっかかるように、全力で伸ばした。すると、水槽の壁に前足がひっかかったのである。

そこで、吾輩は無我夢中で身体を押し上げた。

すると、吾輩の目が水槽から5センチほど上に出たのだ。

吾輩は、まさかこんなに簡単に「水槽越え」が成功するなんて思ってもみなかった。

そして、吾輩の目の前には、久しぶり見るリビングの光景がひろがっていた。

でも、この光景はいつも見慣れている光景ではなかった。

吾輩が自分の力で勝ち取った光景なのだ。

苦節9年。吾輩は、目を閉じて、しばらく間、感慨にふけっていた。

そして、そっと目を開いた。

すると、その瞬間、心臓が止まるほどびっくり仰天した。

なんと、目の前には、主人がいて、目が合ったのだった。

吾輩は一瞬、「やばい」と思い、とっさに水槽の底に隠れた。そして、その時、何か嫌な予感がしてきた。

すると、さっそく主人から恐れていた発言が飛び出したのだった。主人は、奥さんに向かって言った。

主人:今日は、びっくりすることが2つもあったよ。

ひとつ目は、カメ輔が、水槽の壁によじ登って、マメのおねだりをするようになったこと。そして、ふたつ目は、カメ子が、また、水槽から脱走しようとしていることだ。

さて、カメ子はこれからどうするかな?

すると、奥さんは、「あっ、そう」と、意外にもそっけなく答えたのだった。嫌な予感が的中し、やはり主人は、吾輩の顔が水槽から大きく出ている姿を見過ごさなかったのである。さらに、主人の言った「また」に愕然とした。

吾輩は、忘れかけていたあの苦い出来事を再び思い出した。吾輩は、前科一犯だったのである。

過去に一度、主人と奥さんが外出していた時、水槽から脱出したことがある。

しかも、家の中を探検しているうちに、主人の寝床に入り、うっかり寝てしまったのである。

そして、帰宅した主人に見つかり、それから3日間食事を貰えなかった。

吾輩は、「もし、吾輩が再び水槽から脱出したら、吾輩をどうするつもりだろう」と不安だった。

今度、もし、そんなことをしでかしたら、3日間メシ抜きだけでは済まされないであろう。

もしかして、主人と奥さんは、吾輩を捨てるかもしれない。

そして、吾輩の不安や恐怖心が、奥さんの一言で、さらに増したのである。

奥さん: カメ子が水槽の上に顔を出しているって、知っていたわよ。さあ、これから、カメ子をどうするかね。

吾輩は、事の重大さのわりには、主人や奥さんの言動が冷静で、いったい何を考えているのかわからず、かえって、そのことが不気味で恐ろしさを感じた。

 

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【後記】

主人と奥さんは、カメ子に聞こえないように、二度と水槽から脱出しないようにするには、どうしたら良いかを話し合いました。巷では、カメを外の池で飼っている人もいれば、家の中で、プラスチックの水槽や透明なアクリル水槽で飼っている人、逆にカメを家の中で自由に徘徊させ、同じ布団で寝かせている人もいるようです。

一方、家で飼っている外来種等のカメが大きくなり過ぎて面倒を見切れなくなり、川や池等へ放つ事例が多くなっているようです。そして、残念ながらこのことが、社会問題になってきています。

もしかしたら、今回のようなことで、カメを川や池等に捨てる人がいるかもしれません。

奥さんは、「カメ子が水槽から脱出しないように、水槽に網を被せたら」と言いました。

すると、主人は、「そんなことをしたら、カメ子に長年の夢を諦めさせることになる。そんなの可哀そうだ」と答えました。

カメ子が水槽から脱出するのは、水槽の中にずっと閉じ込めていた私達の責任なんです。カメ子、本当にごめんなさい。

これからは、カメ子とカメ輔を、時々散歩に連れていき、ストレスを解消させようと思います。

カメ子カとカメ輔は、大切な家族の一員ですものね。

 

※:【カメのひとりごと】第48話「大脱走」(未掲載)