白いモヤの向こう側に、どこか見覚えのある光景が広がっていた。吾輩は、「一体何だろう?」と思っていると、目が覚めた。
その光景は、我が家のリビングの白い天井であった。
吾輩が朝起きて、まず、最初に目に入るのは、水槽の水色の壁のはずなのになぁ~これっていったいどういうこと?
今日は、なんだか変だぞ!
それに、朝目覚めた時、いつもは体が甲羅に覆われて窮屈さを感じるのに、今日は、まったく感じない。
(横向きで自分の背中を見ると)あれっ、甲羅がないじゃないか。今日は、やっぱり変だ。
そこで、吾輩は、上半身だけ起き上がってみた。(よく考えてみると、カメが上半身だけ上げることはできない)
なんと吾輩は、毛布に包まれて寝ていたのである。
そして吾輩の横で、奥さんがスヤスヤ寝ているではないか。さらに、周りを見渡すと、水槽の中ではなく、リビングにいるのである。
これってどういうこと?吾輩は、いったい何者?
あっ、もしかして・・・何か嫌な予感がしてきた。
吾輩は、無性に鏡が見たくなり、洗面所へ行き鏡の前に立った。
すると、そこには、額に星印のシールのような物を付けた主人が映っていた。
吾輩は、最初は嫌な予感がしたが、だんだんと気持ちも変わり、次第に自分の水槽に戻りたくなっていった。
そして、恐る恐る自分の水槽を覗いてみた。
すると、そこには、額に星形のシールのような物を付けた吾輩がいるではないか。
その時、カメは人間と比べると、なんて小さな生き物なのか。と、思った。
そして、自分の甲羅を初めて見た。こんなに小さな体に重たい甲羅を付けていれば、人間から「カメはのろま」だと言われてもしかたがない。
吾輩(カメ子)は、そこにいる吾輩(カメになった主人)に対してテレパシーを使って聞いてみた。すると、吾輩(カメになった主人)が、話はじめたのである。
水槽の中のカメ(主人):おい、ワシの姿をしているお前はいったい誰だ?
吾輩は主人に答えた。
カメ子:カメ子だよ。あなたはご主人様ですか?
主人が言った。
主人:そうだよ。ワシはお前の主人であり、この家の主だ。
やはり、嫌な予感は的中した。吾輩と主人が入れ替わってしまったのである。なぜだか吾輩が人間になってしまったので、頭は冴えていた。
さらにカメ(主人)は言った。
主人:困ったことになってしまった。
でも、ある意味、良かったのかもしれない。
ワシが戻る所がわかったからなぁ。
さて、これからどうしたら元の状態に戻るのかを考えなくてはならん。
ところで、カメ子、こうなってしまったことについて、何か身に覚えはないか?
すると、吾輩は、「そんなものないよ」と即答した。
(あれっ、そう断言していいの?)
その後、しばらくの間、吾輩と主人は、二人が元に戻る手段を考えてみたが、頭の良い主人から何も名案は浮かばなかった。
やはり、カメになってしまった主人は、頭が冴えなくなってしまったのだろうか?
そうとなれば、後で仕返しが怖いが寝ている奥さんを叩き起こして、アドバイスを乞うた方が良いのだろうか?
何の解決策もなく二人で小田原評定※1をしていると、主人から、思いがけない話が飛び出してきたのである。
主人:あのなぁ。カメ子。ワシがお前の姿になったことに気が付いたとき、ふと思ったことがある。
それは、お前が水槽の外に出たくて、何度も水槽の壁によじ登ぼっては横転していたことだ。
どうして、何度もそんなことをするのか?と、思っていたが、これから先ずっと、こんな狭い所に閉じ込められてしまうのか?と、思うと、お前の辛い気持ちがはじめてわかったよ。狭い所に閉じ込められるのは、本当に辛いってことを・・・。
だから、何度も水槽の壁をよじ登っていたのかぁ。
食べ物も、昔はホッケの塩焼き、マグロやサケ等の刺身を与えていたが、今では、お前の体のことを考えて、マメ(魚の配合飼料)を与えている。
でも、いつも同じマメだと、美味しくても飽きるよな。
水の入れ替えにしても、3日に一回では、臭くて辛かっただろう。
お前達の餌やり、水換えの担当は、ワシ以外には誰もいない。
カメ子やカメ輔を生かすも殺すもみんなワシの心得次第だ。全て、ワシが悪かった。
ごめん。これから気を付けるよ。
それを聞き、吾輩は感激の余り、目から涙があふれてきた。そして、吾輩も主人に対する思いをさらけ出したのである。
カメ子:実は今日、自分が御主人様と入れ替わった夢を見たのだ。
まさか、これが正夢になるとは思わなかったよ。
そして、御主人のこれまでの生い立ちが走馬灯のように吾輩の頭の中を駆け巡って行ったのである。
本当のことを言うと、「人間は、いつでも美味しい物を食べられ、好きなときにいつでも外出でき、好きな所に行ける。素晴らしい人生で良いなぁ~ちょっとの間でいいから、吾輩も人間に生まれ変わって、人間の気分を味わってみたいものだ」と羨望の目で見ていた。
でも、その陰で、厳しい競争社会を勝ち抜くため弛まない努力をしていたことを、御主人の生い立ちを知って初めてわかったのである。
これからも御主人様のことを尊敬していきますので、吾輩やカメ輔のことをそっと見守ってくださいね。
吾輩は心の中の思いを全て吐き出し、安心したせいか、急に眠気がさしてきた。
すると、吾輩は、再び白いモヤに覆われ、その中に消えていったのである。
果たして、カメ子と主人は元通りのさやに収まることができるのか?
次回をお楽しみに。乞う御期待!!
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※1:多くの人が集まって相談しても結論が出ず、決定を見ないことをいう。 天正18年(1590)、豊臣秀吉(とよとみひでよし)が北条(ほうじょう)氏の小田原城を攻めたとき、城内で和戦の評定が長引き、ついに決定を見ないまま滅ぼされたことから出た言葉。