カメのひとりごと

ニホンイシガメのカメ子が、カメ目線でとらえた人間社会をおもしろおかしく書いています。

第211話 主人と奥さんとのマイペースな亀たちの日常。のんびり癒やされる『マンガ版:カメのひとりごと』を初公開!

 

皆さん、こんにちは!
今回は、新たに完成した『マンガ版:カメのひとりごと』をご紹介します。

本作の主役は、我が家の愛すべき2匹のニホンイシガメたち。

14歳の「カメ子」(女の子みたいな名前ですが、立派なオスです!)と、
9歳の「カメ輔」です。

それぞれ別々の水槽でのんびり暮らしている彼らですが、

実は水槽の中から、飼い主たちのことをばっちり観察しているんです。

「今日のゴハン、いつもよりちょっと遅くない?」
「いつもお世話をしてくれるサラリーマンのご主人様、今日はお疲れモードだな……」

そんな彼らのマイペースでちょっと哲学的な(?)内なる声と、

人間たちとのクスッと笑える何気ない日常をマンガでお届けします。

カメたちの視点から描かれる世界は、普段私たちが気づかないような発見や、

思わず肩の力が抜けるようなエピソードがいっぱいです。
カメ好きの方はもちろん、毎日の生活にちょっとした癒やしが欲しい方にも
おすすめの作品に仕上がりました。

🐢 第1章:火災警報器が暴いた男の本性 〜逃げ足だけは日本一〜

「火事です。火事です。すぐ避難してください。ジリジリジリジリ!!」
ある日、平和な我が家に突然鳴り響いた火災警報器の大音量。

パニックに陥る2匹。 「火事だ!逃げろ!」

普通なら、愛する妻をかばい、

大切なペットであるカメ子とカメ輔の入った水槽を抱えて避難するはず……。
しかし、我が家の主人が取った行動は、常人の理解を遥かに超えていた!

なんとご主人は、奥さんを振り返ることもなく、

ましてや水槽の中で身動きが取れないカメたちを一瞥することすらなく、

「自分だけ我先に」猛ダッシュで家から飛び出していったのである!

その逃げ足の速さたるや、オリンピック選手も顔負け。
しかし、外に飛び出した彼の姿を見たご近所さんたちは、

一様にドン引きし、ヒソヒソ話を始める。

それもそのはず。ご主人が慌てて羽織って外に出たのは、

奥さんの愛用する「真っ赤でド派手な丹前(たんぜん)」だったのだ!

いい歳をしたおじさんが、真っ赤な女性用の丹前を羽織り、

家族を見捨てて一人で震えている姿……。

これ以上の赤っ恥があるだろうか?

幸いにも火事は警報器の「誤報」。

しかし、本当の地獄はここから始まった。

家に戻ったご主人を待ち受けていたのは、

般若のような顔をした奥さんからの「こっぴどい説教」。

そして何より恐ろしいのは、カメ子とカメ輔からの「完全なる無視」だった。

「おい、俺たちを置いて逃げたよな? 水槽の中で俺たちがどれだけ絶望したか分かるか?」と言わんばかりの、カメたちの冷酷な眼差し。

焦ったご主人はお詫びの印として、普段は絶対にやらない水槽の掃除を敢行!

さらに、ペットショップで一番高い「高級乾燥エビ」を買い貢ぎ物として差し出す。
しかし、カメたちの怒りはそんな安い(?)賄賂で収まるはずもなかった。
「俺たちをエビで釣れると思うなよ、おいそこの自分だけ我先に逃げた人間」

そっぽを向いてエビを無視するカメたちと、土下座せんばかりにご機嫌取りをする

ご主人。
果たして、ご主人がカメたちからの信頼を取り戻す日は来るのか!?

 

🍳 第2章:一流シェフになり損なった男 〜キッチンは戦場だ〜
第1章の汚名を返上しようと、ご主人が次に手を出したのは「料理」だった。

「俺だって本気を出せば、一流シェフになれるんだ!」

謎の自信に満ち溢れたご主人は、スーパーで最高級の黒毛和牛、キャビア、トリュフオイルなど、家計を一切無視した超高級食材を次々とカゴに放り込み、案の定、奥さんから雷を落とされる。

しかし、彼の暴走は止まらない。

「男の料理は強火が命だ!」とばかりフライパンを振る主人だったが、

油に火が引火!
「ゴォォォォ!」という轟音とともに、なんと炎はキッチンの天井まで到達!

「きゃあああ!熱い熱い!」とパニックになって腰を抜かす自称・一流シェフ。

結局、奥さんが冷静に消火器を噴射して真っ白な粉まみれになりながらも

一命を取り留めるという、大惨事に発展してしまう。

しかし、彼の料理の失敗はこれだけにとどまらない。

  • 【塩分濃度MAX地獄】 味見という概念を持たないご主人が作ったスープは、   一口飲めば血圧が急上昇しそうなほど塩辛く、もはや劇薬レベル。
  • 【ホワイトゴースト事件】 パンを作ろうと小麦粉を派手にぶちまけ、      全身真っ白な粉まみれの妖怪と化す。
  • 【漆黒の炭化肉】 最高級だったはずのステーキ肉を、
    文字通り「消し炭」になるまで焼き上げ、                  叩くと「カンカン」と高い音が鳴る謎の黒い物体を錬成。

次々と繰り出される失敗のフルコース。

キッチンは完全に崩壊し、家計は火の車、そしてご主人のプライドはズタボロに……。

物語のラスト。
疲れ果て、すすまみれになったご主人の前に、

奥さんが無言で差し出したのは、ありふれた普通の「肉じゃが」と「お味噌汁」。

それを一口食べたご主人。

「……ああうまい」 一流の高級食材でもなく、派手なフランベでもない。

いつもの奥さんの味が、世界で一番美味しいことに気づいたご主人の目からは、

大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちる。

呆れ果てていたカメたちも、その姿を見て

「やれやれ、世話の焼けるご主人だ」と、

ほんの少しだけ優しい目を向けるのだった……。

 

【本作の3つの魅力・見どころ】

  1. 動物の視点から描く「人間観察」の面白さ! カメの低い視線から見上げる人間のドタバタ劇は新鮮そのもの。口のきけないカメたちが、心の中でご主人に浴びせる辛辣なツッコミの数々は、読者の心の声を完璧に代弁してくれます!
  2. 圧倒的な「共感」と「あるある」! 「火事の時に旦那が役に立たない」「料理をさせるとキッチンを汚すだけでドヤ顔をする」……世の奥様方が日々抱える不満が、これでもかとばかりにコミカルに誇張されて描かれています。読めば「うちだけじゃなかった!」とスカッとすること間違いなし!
  3. ただのギャグでは終わらない、ホロリと泣けるラスト どんなにダメなご主人でも、最後は家族の絆(と、奥さんの美味しいご飯)に救われる。ゲラゲラ笑った後に、ふと心が温かくなるようなヒューマンドラマの要素も持ち合わせています。

 読者からの絶賛の嵐!(※先行モニターの感想より)

  • 「夜中に読んで大爆笑しました!真っ赤な丹前を着て一人で逃げるご主人、想像しただけでお腹が痛い。カメたちの冷ややかな目線がうちの猫とそっくりです(笑)」(30代女性)
  • 「第2章の料理の失敗ラッシュ、まるで休日の俺を見ているようで冷や汗が出ました……。奥さんの手料理で泣くご主人の気持ち、痛いほど分かります!」(40代男性)
  • 「カメの心の声がいちいち秀逸!『エビで俺たちの心が買えると思うなよ』というプライドの高さに惚れました。早く続きが読みたいです!」(20代女性)

🎁 こんな方に超おすすめ!

  • 日々の家事や育児でストレスが溜まっており、思い切り笑ってスカッとしたい方
  • ペット(特に爬虫類や両生類)を飼っていて、彼らが何を考えているか想像するのが好きな方
  • ダメな大人が全力で空回りするコメディ作品が大好きな方
  • 「家族の絆」を描いた、笑って泣けるハートフルストーリーを求めている方

「カメの歩みは遅いけれど、ご主人の反省はもっと遅い!」

甲羅に閉じこもりたくなるような恥ずかしい失敗の連続。それでも彼らは一つ屋根の下で、今日もドタバタと生きていく。 あなたも、カメ子とカメ輔と一緒に、この愛すべきポンコツご主人を観察してみませんか?

今すぐページを開いて、爆笑必至の「カメのひとりごと」の世界へ飛び込んでください!

マンガ版「カメのひとりごと」のリンク

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もっと、カメ子とカメ輔のことについて知りたくなった方は、

電子書籍「カメのひとりごと」もAmazonのkindleで販売中です。

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彼らの水槽越しに広がるのんびりとした世界を、ぜひ覗いてみてくださいね!

 

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第210話 出生の秘密

この話は、今から8年前のことである。

ある日の午後、吾輩は岩の上で甲羅干しをしながら、うとうとしていた。
すると、どこからともなく主人と奥さんの話し声が聞こえてきた。

どうやら、その話題は吾輩に関することらしい。

特にすることもなかった吾輩は、そっと耳を傾けてみた。
話によれば、吾輩の育ての親に関する記事が、地元の新聞に掲載されたと
いうのである。

そこには、育ての親の経歴や、吾輩の兄弟のことまで書かれているらしい。

その内容を聞いているうちに、なぜか胸の奥が熱くなり、
気がつけば、涙がこぼれていた。

吾輩はこれまで、自分は天涯孤独の身であると思っていた。
(いや、正確には隣にカメ輔がいるが、それはさておき。)

しかし、どうやら吾輩には、数多くの兄弟がいるらしい。
その数、なんと五百にも及ぶという。

五百――。

なんと驚くべき数字である。

もっとも、彼らと連絡を取る術はなく、
どのような顔をしているのかさえ知る由もない。

それでも、自分に確かな「つながり」があると知っただけで、
胸の内に何とも言えぬ感慨が広がった。

さらに、吾輩の祖先が、県内有数の川に生息していたという話も耳にした。

その瞬間、再び涙があふれてきた。

年を重ねると涙もろくなるというが、
どうやらそれは人間だけの話ではないらしい。

そもそも、我がカメ社会には戸籍というものがない。
親の名も、生まれた日も、はっきりとは分からぬ。

分かるのは、せいぜいおおよその年齢だけである。
吾輩ですら、「8才らしい」という程度に過ぎない。

兄弟の数も名前も、正確なところは不明である。

こうして考えると、人間社会の整然とした仕組みは、
何とも羨ましいものに思えてくる。

たとえ吾輩のように多少頭が切れるカメであっても、
人間の子供と比べれば、その差は歴然である。

この事実を思い至ると、どうにもやるせない気持ちになった。

しばし、吾輩は一人、静かに落ち込んでいた。

すると、主人と奥さんがこちらへやって来て、

先ほどの話を、吾輩に聞かせてくれた。
もちろん、その内容はすでに承知していたが、吾輩は初めて聞くふりをした。

そのとき吾輩は、首を半ば甲羅に引っ込めたまま話を聞いていた。
呼吸のたびに首が上下する様子が、
どうやら主人には「うなずいている」ように見えたらしい。

主人は、少し目を潤ませながら言った。
「カメ子よ、自分の出生が分かってよかったな」

その言葉には、どこか温かさがあった。

話のあと、吾輩は隣の水槽にいるカメ輔に、この出来事を伝えた。
もちろん、カメ同士の会話は顎を鳴らして行う。

「カリッ、カリッ、カリッ……」

しかし、カメ輔からの返答はなかった。

「やはり、少し難しい話だったのかもしれぬな」

そう思いながら、その日の夜、吾輩は再び岩の上に登った。

そして、静かに考えたのである。

これまで吾輩は、自分の境遇を不運だと嘆いていた。
だが、それは果たして本当であろうか?

吾輩の産みの親は、おそらく今もどこかで生きている。
加えて、二組の育ての親がいる。

これほど多くの「親」に恵まれたカメが、果たして他にいるだろうか。

さらに今の吾輩は、至って健康である。
野生のカメであれば、イノシシに襲われたり、
大水に流されて命を落とすことも珍しくない。

金槌の吾輩であれば、ひとたまりもない。

それに比べれば、三食昼寝付きの生活を送り、
主人たちに守られている今の境遇は、
むしろ恵まれていると言えるのではないか。

そう思い至ったとき、胸の中に静かな安らぎが広がった。

「ああ、吾輩は恵まれているのかもしれないな」

そうつぶやくと、自然と心が軽くなった。

その夜は、久しぶりに、ぐっすりと眠ることができたのである。

さて、紙面の都合もあるゆえ、このあたりで筆を置くとしよう。

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【読者の皆様へ】

この春、
「カメのひとりごと」のマンガ版が、
Amazon Kindleで発売されることになりました。

これまでブログでお届けしてきた物語の魅力に加え、
マンガ版では、視覚的な楽しさが加わり、さらに広がりを見せています。

作品によっては、セリフを極限まで削ぎ落とし、
静けさと余韻で読者の想像に委ねる文学的な表現もあれば、
登場人物たちの会話を通して、親しみやすく楽しんでいただける作品も

ございます。

ひとつの形にとらわれることなく、
さまざまな表現で描かれる「カメのひとりごと」。

ブログの良さに加え、
見て楽しめるかたちへとバージョンアップした世界を、
どうぞ楽しみにお待ちください。

発売日などの詳細が決まりましたら、改めて
ブログ・Instagram・Xにてお知らせいた致します。

樋下由美子

第209話 新天地

 この話は、今から七年前、冬の名残がまだ残っている頃のことである。
カメ輔の身に、見過ごすことのできぬ異変が生じていた。

主人が水替えをしていた折、ふと気付いたらしい。
「カメ輔の足の付け根に白いものがある。これは、いったい何だろう」
その問いに対し、奥さんは間髪入れずにこう言い放った。
「水替えをサボっているから、カビが生えたんじゃないの」

またしても主人は叱られていた。
吾輩は内心、「気の毒に」と思いつつも、余計な口出しは控えていた。
なにしろ、火の粉がこちらに飛んでくるのは御免こうむりたい。からなぁ。

しかし、事態は単なる水カビにとどまらなかった。
カメ輔の甲羅や体には藻が繁茂し、特に尾に近い部分は目を覆いたくなるほどであった。
さらには頭部にまで青い藻が生じていたのである。

本来、頭に藻が生えるなど考えにくい。
それほどまでに環境が悪化していたということだろう。

にもかかわらず、主人はその様子を見て、
「まるで丁髷(ちょんまげ)のようだ。バカ殿みたいだな」と笑っていた。

主人よ、今は笑っている場合ではあるまい。
カメ輔は吾輩の大切な弟であるぞ。

このような事態に至ったのは、日々の管理が行き届かなかったためであり、
加えて甲羅干しをする岩がなかったことも一因であろう。

以前、カメ輔の水槽に岩を置いたことはあった。
しかし、水槽が狭くなり、カメ輔は岩から転げ落ち、
自力で元に戻れず溺れかけたことがあった。

そのため、主人は岩を置くことを断念していたのだった。

だが結果として、皮膚病と寒さの問題を招いてしまった。

岩を置くべきか、置かざるべきか。
主人と奥さんは熟慮の末、一つの結論に至った。

水槽そのものを大きなものへ替え、
十分な広さを確保したうえで岩を設置し、
さらに水位を浅くして安全を保つ。

これはカメ輔にとって、まさに「昇格」と呼ぶべき出来事であった。
吾輩もまた、兄として喜ばしく思った。

やがてその日が訪れた。
主人たちは新しい水槽を携えて帰ってきたのである。

その大きさを見て、吾輩は思った。
「ついにカメ輔が一国一城の主になるのだな」と。

ところが次の瞬間、思いもよらぬことが起こった。

主人は吾輩をつかみ、新しい水槽へと入れたのである。

「これはカメ輔の新居ではなかったのか」

驚きとともに、鼻をつく新しい水槽特有の匂いに顔をしかめた。

しかし主人は気にする様子もなく、
「新築祝いだ。温かい湯を入れてやろう」と言いい湯を注いでくれた。

その温もりは、寒さにこわばっていた体をほぐし、
匂いもさほど気にならなくなっていった。

ふと気付けば、水槽の位置も変わっていた。
部屋の中央、食卓の近くである。

そこでは毎日のように、美味しそうな匂いが漂ってくる。
「これは悪くない」と、吾輩は思った。

こうして吾輩は、新居の主となったのである。

一方、カメ輔は吾輩の使っていた水槽へ移された。
そこには適度な高さの岩が置かれ、水位も浅く整えられていた。

しかし彼は環境の変化に戸惑い、しばらく身を固くしていたという。
岩に近づいては警戒し、時には敵を見るかのようににらみつけていた。

甲羅干しをすることもなく、ただ、様子をうかがっていた。

その様子を見ていた主人が、
「甲羅干しを覚えさせなければならないな」と言った。

翌朝、カメ輔は、足を伸ばして眠っていたそうである。
ようやく少し、新しい環境に慣れていったのだろう。

吾輩は安堵した。
「やがて、この新しい住まいのありがたさも分かるであろう」と。

吾輩は、こうしてカメ輔を見守りながら、
実際の世話はすべて主人たちに任せている。

それでも、兄としての威厳だけは立派に保っている。
そんな吾輩である。

 

読者の皆様へ

今年の春、
「カメのひとりごと」のマンガ版が
Amazon Kindleにて発売されることになりました。

これまでブログでお届けしてきた物語の魅力に加え、
マンガ版では、視覚的な楽しさが加わり、
さらに広がりを見せています。

作品によっては、セリフを極限まで削ぎ落とし、
静けさと余韻で読者の想像に委ねる文学的な表現もあれば、
登場人物たちの会話を通して、
親しみやすく楽しんでいただける作品もあります。

ひとつの形にとらわれることなく、
さまざまな表現で描かれる「カメのひとりごと」。

ブログのメリットを生かし、
見て楽しめるかたちへとバージョンアップした世界を、
楽しみに待っていてください。

発売日など詳細が決まりましたら、
ブログ・Instagram・Xでお知らせ致します。

             樋下由美子

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第208話 失われていくもの

この出来事は、今から七年前の冬のことである。
当時、吾輩カメ子は八才、そして、カメ輔は、まだ生まれて間もない幼き命であった。
今となっては遠き日の記憶ではあるが、あの朝の寒さだけは、いまだに甲羅の奥に残っている。

前夜、主人と奥さんが居間で語り合っていた。
「明日から、今年一番の寒波が来るらしいよ」と。
その言葉を耳にしたとき、胸の内に、言葉にしがたい小さな不安が静かに芽生えたのである。

そして翌朝、まだ夜も明けぬ午前四時頃であった。
これまで経験したことのないような鋭い寒さが、静かに体を包み込み、吾輩は思わず目を覚ました。
「このままでは少々まずいのではないか」と感じつつも、眠気の重さに抗い(あらがい)きれず、再び夢の底へ沈んでしまったのである。

そのときであった。
寝床から起き上がった主人が、静かに声をかけてくれた。
「カメ子、カメ輔、大丈夫か?寒いだろう」
そう言って、ためらうことなく暖房を入れてくれたのである。

さらに主人は、何やら気配を感じたのか、
「カメ輔がピーピー鳴いている」と奥さんを起こそうとした。
しかし奥さんは、眠りの中から一言。
「そんな事で、私を起こさないでよ!」と一喝。
その光景を見て、吾輩は思った。
「また主人が叱られている。吾輩たちのために、何とも申し訳ないことだ」と。

夢うつつの中で、確かに誰かのか細い声が聞こえていた。
だが、それが誰なのか、その時の吾輩には分からなかった。
後になって気付いたのである。
あれはカメ輔の声であった。

思えば、カメ輔の水槽には、甲羅干しをするための岩が置かれていなかった。
ゆえに寒波の到来とともに、冷えを直接受けるほかなかったのである。
カメが「ピーピー」と鳴くのは、よほどの緊急事態にほかならない。

吾輩自身も幼き頃、溺れかけたことがある。
その時、今は亡きカメ吉が必死に鳴いて奥さんを呼び、命を救ってくれた。
優しく、そして勇気ある存在であった。

それなのに今回は、吾輩は気付いてあげることができなかった。
人に飼われる年月の中で、野生の勘というものが、少しずつ薄れてしまったのだろうか。
人間より遅れて危機に気付いた自分の不覚を、静かに恥じるばかりであった。

主人には、心から感謝している。
あの寒き朝、いち早く気付いてくれたおかげで、カメ輔は守られたのである。

だからこそ、ささやかな願いがある。
どうか、カメ輔の水槽に甲羅干しのできる岩を置いていただきたい。
小さな備えが、小さな命を守ることもあるのだから。

人と共に暮らす中で、便利さと引き換えに、何か大切な感覚が静かに失われていく。
それは野生の勘であり、危機を察する力であり、そして、仲間の声にいち早く気付く心でもあるのかもしれない。

あの冬の寒波は去った。
だが吾輩は今もなお、あのか細い「ピーピー」という声を忘れることができない。
それは寒さの記憶であると同時に、失われていくものへの、静かな警鐘でもあったのである。

読者の皆様へ 

今年の春に
「カメのひとりごと」の
マンガ版が
Amazonのkindleで発売決定!

これまでブログで掲載してきた「カメのひとりごと」は、
少しコミカルで、やわらかな語りの物語でした。

しかし今回、Kindle版として制作したマンガは、
まったく新しい作品で、セリフを極限まで削り、
静けさと余韻だけで描いた、文学型の「カメのひとりごと」。

多くを語らないからこそ、
読む人それぞれの心に残る物語になると思います。

New「カメのひとりごと」もお楽しみください。

発売日など詳細が決まりましたら、
ブログ、インスタグラム、Xなどで
お知らせ致しますので、楽しみに待っていてくださいね!       

樋下由美子
 

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第207話 別腹

 

これは、今から七年ほど前の話である。
当時の吾輩は七つ、カメ輔はまだ二つで、市販の餌以外を、ほとんど口にしたことがなかった。

一般に、亀は十一月頃になると寒さのため食が細くなると言われている。
物知り顔の人間に言わせれば、
「亀は変温動物で、気温が下がると代謝が落ちて、食欲も減る」
などと、いかにももっともらしい理屈を並べる。

だが、あの年の吾輩は、少し事情が違っていた。
十月の半ば頃から、どうにも食欲がわかなくなってきたのである。

理由は主人には内緒にしておきたいが、実を言えば、市販の餌に飽きてきたのである。
七つの子亀なりに、味覚というものが芽生え始めたのである。

さて、ある日の夕餉の刻。
隣を見ると、カメ輔は相変わらず、何の疑いもなく市販の餌をパクパクと食べている。
二つという年頃は、幸せなものである。

主人は続いて、吾輩にもスプーンで餌を差し出してきた。
吾輩は心の中で、
「カメ輔と同じ物を食べさせるでない‼」
と叫びつつ、嫌々それを口に運んだ。

その様子を見て、主人は言った。
「もうそろそろ寒くなってきたから、食べなくなったんだなあ」

それを聞いた吾輩は、内心、「しめしめ」と思った。

案の定、主人は冷蔵庫から魚肉ソーセージを取り出し、ピンセットに挟んで吾輩の前に差し出した。
ふわりと、何とも言えぬ良い匂いが鼻をくすぐる。

吾輩は念のため、毒が入っていないかどうか?と匂いを嗅ぎ、一気にかぶりついた。
ああ、うまい。実にうまい。
飲み込む時間さえ惜しく、口いっぱいに頬張ったまま、次をねだったほどである。

それを見ていた主人は、苦笑しながら言った。
「寒くて食欲がないのかと思っていたらが、カメ子は、子どもなりの悪知恵をはたらかせたな!」

吾輩は、
「しまった。ばれたか」と思ったが、主人は続けた。

「人間だって毎日同じ食べ物じゃ飽きる。カメ子、わしが悪かった。これからは、時々うまいものを食べさせてやるからなぁ」

ここで吾輩は、主人に一つ、忠告しておきたい。

当時のカメ輔は、まだ二つ。
市販の餌しか知らず、未知の食べ物には強い警戒心を示していた。
だが、一度でも人間の食べ物の味を覚えてしまえば、きっと市販の餌には見向きもしなくなるだろう。

人間の食べ物は、確かにおいしい。
しかし、亀の体には良くないものも多い。
それでも一度覚えた味は、なかなか忘れられず、つい口が出てしまう。

吾輩自身も、カメ輔と同じ年頃のころは、
世の中にこれほどおいしい物があるとは知らなかったし、食べてもいなかった。

主人よ、どうか、カメ輔には同じ過ちを繰り返させないでほしい。

・・・と、ここまでは、いかにも兄らしいことを書いてきたが、
今になって白状すれば、
あの頃の吾輩は、ただ分け前を守りたかっただけの、七つの子亀であった。

カメ輔が美味なるものを語るには、まだ十年早い。
おととい来やがれ。

 

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第206話 絆 ― 甲羅の奥で交わした約束

 

 吾輩はカメである。名はカメ子。

これから語るのは、ただの思い出話ではない。

甲羅の奥底に静かに刻まれた、吾輩とこの家族との「絆」の物語である。

 

これは五年ほど前の出来事であった。

当時、吾輩は今より少しばかり気難しく、そして何より疑い深い性格であった。

巷では「イシガメは臆病だ」と言われるが、吾輩に言わせれば、それは「臆病」ではなく「用心深さ」である。

厳しい自然環境え生き抜くためには、それくらいの慎重さが必要なのである。

 

今日の話は、吾輩がまだ幼く、今は亡き兄弟分・カメ吉と同じ水槽で暮らしていた頃のことである。

主人が水面にばら撒いた餌に、真っ先に飛びつくのはいつもカメ吉であった。

人は「勇敢」だと言うかもしれぬ。しかし、吾輩は違った見方をしていた。

もしかすると、素の餌には毒が入っているのではないか?

まずはカメ吉に先に食べさせ、その様子を観察する。

苦しむ様子がなければ、ようやく吾輩もゆっくり口をつける。

これが吾輩の流儀であった。


主人夫婦が聞けば笑い飛ばすだろうが、生きものとは常に生と死が隣り合わせである。慎重であるということは、生きるための知恵である。

 

寝床に選ぶ場所も同じだ。水槽の片隅、あるいは人工の岩の洞穴のいちばん奥。

そこが吾輩の定位置であった。

カメ吉が中に入ろうとすると、突いてさりげなく追い出した。

世間の評価はこうである。

「カメ吉は素直で人が良い」
「カメ子は計算高くてずる賢い」

だが、世を渡るというものは、そんなに甘くはない。

疑いを捨てた瞬間に命を落とす。そういう生き物が、どれほどいたことか・・・。

しかし、である。

そんな吾輩の心をやわらかく溶かす瞬間が訪れた。

ある日のこと。主人と奥さんが語り合っていたのを聞いた。

 

「ねえ、カメ子って、もしかしたら私のお爺さんの生まれ変わりかもしれないわね」

その言葉を聞いた瞬間、吾輩の胸に、不思議な温もりが灯った。

 

もし本当にそうならば
もし吾輩が、奥さんの大切な人の面影を背負っている存在なのだとしたら

この家で疑い続ける生き方は、いささか寂しいことではないか。

 

その日を境に、吾輩の態度は少しずつ変わり始めた。

岩の上に登って、無防備な姿で熟睡するようになった。
鼻息を鳴らし、夢を見るように眠る自分に、吾輩自身が一番驚いた。

 

水槽の中で首を伸ばしたとき、主人がそっと頭や喉を撫でてくれる。
かつてなら身を固くして拒んだであろうその行為に、今の吾輩は素直に身を委ねている。


頭も喉も、カメにとって急所中の急所である。それを人間に預けるということは、命を差し出すに等しいことである。

しかし、吾輩は、あの気持ちの良さには負けてしまった。

 

ピンセットで餌を受け取ることも、今では当たり前となった。
以前なら疑い、跳ね除けていたその鉄の先端に、今は自ら口を伸ばしている。

気がつけば、吾輩とカメ輔、そして主人と奥さんは、言葉を超えた不思議な「絆」で

結ばれていた。

 

あれから五年。
カメ輔は立派な大人に成長した。
主人も奥さんも、年齢とは裏腹にむしろ心が若返っている気がする。
そして吾輩は――世間様から「デカガメ」と呼ばれるほど大きくなった。

けれど、ただ体が大きくなっただけではない。
心もまた、静かに広がりを得たのである。

今でも、その用心深さを捨ててはいない。
しかし、人を信じるという選択肢が持てるようになった。

それが、吾輩の誇るべき成長である。

 

カメにとって、「絆」とは言葉で交わす約束ではない。
ましてや契約書に判を押すものでもない。

 

ただ、寄り添い、見守り、信じる。
その積み重ねが、いつしか甲羅よりも固い結び目となる。

 

吾輩は今日も、静かに目を閉じる。
温かな家族の気配を背中に感じながら。

これからも、この絆がほどけることがありませんように。

それを願うことこそ、吾輩のささやかな幸福なのである。

カメ子拝

 

【読者の皆様へ】

 

今年一年間、私のブログを読んでくださり、どうもありがとうございました。

今年も残り少なくなりましたが、良い年をお迎えください。

来年が、皆様にとって良い年になりますようにお祈りしています。

                          樋下由美子                  

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第205話 昔はよかったー吾輩、夢の中にて“黄金の日々”を思う

吾輩はカメである。名をカメ子という。
この小さな水槽が吾輩の終の棲家であろうと、ふと考えると胸の奥に微かな翳りがさす。
しかし、そこは生き物の知恵。限られた世界の中に、吾輩なりの楽しみを見つけてひそやかに暮らしている。

その最大の悦楽といえば、何といっても「食うこと」と「寝ること」である。

食う楽しみの章 ━黄金の晩餐

吾輩の食卓は、主人の「カメ子、カメ子、餌をやるぞ」の一声にて開幕する。
この召喚の言葉を聞けば、吾輩は条件反射のように首を伸ばし、甲羅ごと主人の方へ進み寄る。「くれ、くれ」と前足を伸ばすその風情は、我ながらいささか品に欠けるが、食欲の前では体裁など吹き飛ぶ。

特に好きなものが皿に載ると、吾輩は右足を天に突き出してバランスを失い、ひっくり返ることさえある。品位は地に落ちるが、幸福だけは天に満ちる。

吾輩の食卓は、一日三度。時間は主人の気分という曖昧極まりない法則に従う。
この点だけは、ぜひとも改善を望みたい。

さらに告白すると、市販の餌のほかに、吾輩は人間界のご馳走を密かに享受してきた。
ホッケ、国産ビーフジャーキー、鮭の“ときしらず”、マグロ、ステーキ。そして防腐剤の入っていないパン。吾輩の鼻は天下一品ゆえ、薬品の臭いがするパンは一切受け付けない。

初めてホッケを口にした日のことは忘れられぬ。
「この世にかくも美味なるものがあったとは……。人間に生まれていれば、どれほどの幸せであったろう」
そう心から思ったものだ。

奥さんは吾輩の胃腸を案じ、マグロは刺身ではなく、表面だけを軽く炙って与えてくれた。
おかげで胃も心も温まった。

あの頃は毎夕、台所から立つ湯気さえ、祝祭の香りに満ちていた。
“今日の晩餐は何だろう”と胸を躍らせていたあの日々こそ、まさに「昔はよかった」の象徴である。

寝るのも楽しみー夢と現のあわいにて

次は、吾輩の密かな愉しみ「寝ること」について書かねばなるまい。

毎朝6時30分。主人の目覚ましが鳴るが、吾輩は七割の確率で既に目覚めている。
逆に、吾輩が寝坊するときは決まって、主人と奥さんが前夜遅くまで起きていたときである。同じ屋根の下で暮らすとはこういうことか。人間の生活リズムに、甲羅まで影響されるとは情けない話だ。

主人が吾輩の寝坊を見つけたときなど、鬼の首でも取ったように叫ぶ。

「カメ子、まだ寝てるぞ! 勝った! 人間が野生のカメに勝ったぞ!」

何を競っているのか、皆目わからん。
生き物は誰しも寝坊をするのだ。人間だけの特権と思うなかれ。

さらに主人は、吾輩の眠る姿を見ていちいち感嘆する。

「カメ子が鼻風船を作っている!」
「当たり前だ、人間と同じくカメも空気で鼻を満たす。」

「カメ子があくびをしている!」
「当たり前だ。どんな生き物も眠ければ口が開く。」

「カメ子が夢を見ている!」
「当たり前だ。夢を見るのは、人間だけの特許ではないわ。」

ところが、ある日のことである。
吾輩は「妙な夢を見ている」と主人に噂され、ふと手足をピクリと動かした瞬間、気づいてしまった。

あれ? 今までの吾輩の独白、すべて夢の中の出来事だったのではないか?

夢と現の境がゆらぎ、思わず甲羅の中で考え込んだ。

夢の中では、主人は若く、吾輩は朝昼晩と三度の食事に恵まれ、ホッケも、ステーキも、パンも、日替わりで口にしていた。

そんな豊かな日々は、今となっては影も形もない。
だからこそ、目覚めた瞬間、胸の奥にふっと寂寥が立ちのぼった。

昔はよかった。
あの頃に戻りたい。

吾輩は、静かにそうつぶやいた。

―だが、今を生きる

しかし、夢から覚めたとき、吾輩は思った。

「昔はよかった」と嘆くのは簡単である。
だが、今日の一日も、いつか“良き日”として胸に刻まれるのではないか、と。

吾輩の世界は小さい。しかし、その中で見つける悦びは、決してささやかなものとは限らない。
主人の足音、奥さんの笑い声、差し込む朝の光、そして時おり訪れる小さな冒険。

人生とは、昨日を惜しみつつ、今日を生きる有為転変の旅路なのだろう。

吾輩は甲羅を少しだけ持ち上げ、ゆっくりと深呼吸した。

昔もよかった。だが、今日も悪くない。

たとえ、この小さな水槽の中であっても。

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