カメのひとりごと

ニホンイシガメのカメ子が、カメ目線でとらえた人間社会をおもしろおかしく書いています。

第100話 公園デビュー

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 今日は、カメ輔にとって記念すべき日になるとは、誰も知らなかった。

奥さんが外出した後、主人は、吾輩とカメ輔を水槽から出し、小さいバスケットに入れた。吾輩は、日頃、主人と奥さんの会話で、何をするのか、だいたいわかるが、今回ばかりは全くわからなかった。そして、バスケットの中で揺られながら、「今日は、どこに連れて行ってくれるのだろうか?」と半分期待をしつつ、車のある方向を眺めていた。

ところがどうだ、主人は、駐車場の方には行かず、あらぬ方向に進んで行ったのだ。

そして、その場所に着くと、吾輩とカメ輔を地面の上に置いた。吾輩は、久しぶりに地面を踏みしめた後、周りを見渡した。そこは、どこか見覚えのある場所だった。「さて、ここは、どこだ?」と思っていると、吾輩の目の前に、見覚えがある、置物があった。そして、それを見るなり、頭の中に嫌な映像が蘇ってきたのである。「あっ、そうだ!ここは、吾輩が、初めて失禁をした滑り台がある公園だ。(第87話我が人生で一番恥ずかしい思い出)一瞬、「ヤバイ」と思い、滑り台の方から目をそらした。そして、横を見ると、そこには、首を長く伸ばし、辺りをキョロキョロと見ているカメ輔がいた。でも、カメ輔はその場所から動こうとはしない。いつも、すぐに動き回り落ち着きがないカメ輔ではなかった。そして、ついに、カメ輔は、ある方向に向かって、今まで見たことがないぐらいの速いスピードで走り出したのである。カメ輔が、吾輩からドンドン離れていくのを見て、「そろそろ、ヤバイな」と思い、老体(御年9才)に鞭(むち)を打ち、カメ輔に向かい無我夢中で走ったのである。そして、10メートルほど走ったであろうか、ようやくカメ輔に追いついたのである。吾輩は、心臓がバクバクし、未だ、荒い息をしている中、カメ輔に声をかけた。

カメ子:(ハア~。ハア~)おい、どうした?今日のお前はカメ輔らしくないぞ。さっきまで、周りを見ながら、じっとしていたのに、突然、突っ走るなんて・・・。

すると、カメ輔は、「だって、ここに来るのは初めてで、どこに進んで良いのかわからなかったんだよ」と言った。

吾輩:そうか、お前にとって、今日が、公園デビューだったんだなぁ。人間の公園デビューというのは、母親が子供を初めて公園に連れて行き、子供のことや主人の悪口をペチャクチャ喋って、コミュニケーションを図るらしいが、カメには、そんな仲間なんかいない。お前は一人ぼっちで、本当に可哀想なカメだ。

吾輩とカメ輔が顎の関節を「カリッカリッ」と鳴らしながら会話をしているのを見て、主人が、こちらにやって来た。

そして、吾輩とカメ輔をバスケットの中に入れ、元の位置まで戻り、また、吾輩たちをバスケットから出して、放し飼いにしたのである。

しばらくすると、どこからともなく、「あっ、カメさんだ。珍しい。ちょっと見てもいいですか?」と言う女性の声が聞こえてきた。そして、主人が「良いですよ」と答えると、女性はこちらにやって来た。主人は、吾輩とカメ輔を指差しながら、吾輩のこと、カメ輔のこと、「カメのひとりごと」の本のこと等、日頃の主人では考えられないぐらい熱弁を振るって喋っていたのだった。そして、その女性は、ゆっくり吾輩に近寄って来て、そおっと、吾輩の甲羅を触ったのだ。さらに、ポケットからスマホを取り出し、吾輩を撮影したのだった。

そんな最中、カメ輔も、だんだん人間の言葉が理解できるようになってきているのに、主人が「カメ子は男前でハンサムだが、カメ輔は〇〇〇○だ」と得意満面に話しをしているではないか。

吾輩は、「カメ輔が、主人の言葉を聞き、辛いだろうなぁ」と思った。そして、心配していたことが現実となり、カメ輔の顔が、みるみるひきつってきたのである。

そろそろ、主人と女性との会話が、終わりに近づいてきたとき、最後に女性がポツリと言った。

女性:実は、私、カメが怖かったの。でも、今日、初めて、可愛いカメさんの身体を触ることが出来て、気持ちがブルーだったのが、良くなったわ。どうもありがとう。

しばらくして、カメ輔の公園デビユーも無事に終わり、皆で家に帰った。そして、夕方になり、主人は、カメ輔のいる水槽をそお~っと覗いて見た。そして、カメ輔を見て「こんなカメ輔を見るのは始めてだ」と驚いていた。

どうやら、カメ輔は、長く伸ばした首を水槽の壁にくっつけ、グウ~グ、グウ~とイビキかいて爆睡しているようだ。

吾輩は、いつものことだが、カメ輔は、とても珍しい姿なのである。吾輩は、「公園デビユーをして、緊張の糸が切れたのかなぁ」と思った。すると、主人は、「あ~カメ輔は、夢で、広い草原を駆け回り楽しんでいるんだなぁ」と言った。吾輩は、「貴方が女性に発した言葉で、カメ輔は、相当傷ついているんだよ」と思ったが、言えなかった。

主人は、相変わらず、気遣いが足らず、脳天気で、本当に困ったものだ。

一方、吾輩もカメ輔の公園デビユーで、久しぶりに見知らぬ女性との遭遇もあって、いささか疲れてしまった。

吾輩は、その女性が言っていたお礼の言葉を思い浮かべながら、ゆっくり眠ることとする。

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