カメのひとりごと

ニホンイシガメのカメ子が、カメ目線でとらえた人間社会をおもしろおかしく書いています。

第105話 筋斗雲(きんとうん)

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 1月某日、お昼過ぎのことである。

吾輩は、今日は、何か良いことが起こりそうな気がしていた。すると、主人が、トングで吾輩を水槽から取り出し、バスケットの中に入れたのである。

「おや、今日は、甲羅を掃除しないのかな?」と思っていると、吾輩とカメ輔を入れたバスケット2個を両手にぶら下げ、外に出たのである。

すると、目の前には、見覚えのある景色が広がっていた。

「あっ、この前の公園だ」と思っていると、早速、主人は、吾輩とカメ輔をバスケットから取り出し、地面の上に置いたのである。

そして、吾輩とカメ輔を向かい合わせに置いたのだ。

これには、何か深い意味があるのかな?と思っていると、主人が、「おい、カメ子、カメ輔。今日はご褒美だ。いつも、狭い所で窮屈な思いをさせてすまんな。今日はのんびりしてくれ」と言った。

用心深い吾輩は、いつものとおり、顔を甲羅の中に引っ込めて主人の話を聞いていた。「あっ、これが、良いことだったのかなぁ?」と思った。

前を見るとカメ輔が、既に首を長く伸ばし、四方八方を見渡していた。

そして、ついに、カメ輔は、進むべき方向が決まったようで動き出した。

カメ輔は、どっちの方向に行き、何をしでかすかわからないので、吾輩は、とても心配で、カメ輔の後について行くことにした。

カメ輔は、以前より速いスピードで歩いて行ったので、吾輩は、離されないように必死について行った。しばらくして、カメ輔は、突然足を止め、後ろを振り返り吾輩を見た。

そして、驚くべき発言をしたのだった。

カメ輔:お兄ちゃん。僕は、もうあの狭い水槽の中は嫌だ!とても退屈だし、自分を試すために、一人立ちしたいんだよ。旅立ちたいんだ。見逃してくれ。

吾輩は、その時の発言内容が、あっけにとられて何も言えなかった。

そして、少し間をおき、心を落ちつかせて、カメ輔に言った。

カメ子:まあ、自分の好きなようにしたらいいさ。

カメ輔は、吾輩が発言を終えた後、再び、前進した。

一方、吾輩は、この一大事を早く、主人に知らせようと、主人のいる方に向かった。

そして、ようやく到着し、この話を切り出そうとした時、主人の方から話し始めたのである。

主人:カメ子よ。お前は義理堅いので、恩を返すが、カメ輔は恩というものをわかっていない。でも、そういうお前も、前にカメ輔と同じことをしでかしたからな~

どうも、主人は我々の行動を一部始終見ていたようだ。

でも、「お前(カメ子)もカメ輔と同じことをしでかした」ということがちょっと気になった。

その後、カメ輔はどうなったか?って、言わずもがなだ。

公園の散歩が終わり、吾輩とカメ輔は、家の水槽に戻された。

そして、吾輩は、カメ輔が言った事と主人が言った、「お前もカメ輔と同じことをしでかした」ということについて、しばし考えてみた。

すると、突然、あの時のことが、頭の中に浮かんできたのである。

あれは、今から8年前の出来事だったなぁ?

以前、住んでいた家の横には、広い駐車場があった。

主人はそこに、吾輩をバスケットの中に入れて連れ出し、地面の上にそっと、置いたのである。

その時、吾輩は御年1歳で、水槽の中にいるより外に出たくて、仕方がなかった。

その駐車場は、コンクリート作りではなく、土埃のする地面で、時刻は、夕暮れ時であった。

吾輩は、久しぶりに土に触れ、足の裏の肉球が心地良かった。

そして、「水槽の世界から抜け出すのは、今しかない」と思い、夕焼け空で真っ赤に染まっている西の空に向かって走り出した。初めての大脱走である。

吾輩は、いつも主人から、「お前は、歩くのが、ずば抜けて速い」とお褒めの言葉を頂いていたので、いささか、走るのには自信があった。そして、この脱走劇は、絶対に成功するだろうと確信していた。

吾輩は、無我夢中で走り、50m程、走ったであろうか?

(カメにとっては、800m位かな)息が上がり、口から泡を吹いてしまった。

「ここまで来たら、もう、主人は追っては来ないだろう」と思い、後ろを振り返った。

すると、そこには、主人がいたのである。

吾輩は、それまで、主人には全く気付かなかったので、「完敗した」と思っていると、家に連れ戻されてしまった。

そして、今日の出来事をもう一度、振り返り反省した。

すると、以前に、主人と奥さんが話しをしていた内容を思い出した。

それは、※【西遊記、第3話(釈迦の手のひら)】であった。

その話しとは、 觔斗雲(きんとうん)に乗って、この世の果てまで来た孫悟空は、そこで見つけた大きな石に何やら文字を書いた。

そして、それを証拠とし、再びお釈迦様に会い、そのことを話すと、お釈迦様の手には、自分が書いた文字が書いてあった。という内容の話しであった。

觔斗雲に乗って、10万8000里の距離を飛んだり、伸縮自在の如意棒を持った、鬼に金棒の孫悟空(カメ)でも、お釈迦様(人間)の前では、「しょせん、釈迦の手のうち」でしか、あばれられない。吾輩の俊足(觔斗雲)では、主人(お釈迦様の手のうち)から逃れられないのだ。我がカメ達は、しょせん、人間の手のうちにしか生きられないということである。

あ~そうだ。吾輩は、このことがきっかけで、もう、二度と脱走することはやめようと思ったんだ。

吾輩は、隣の水槽で謹慎処分?を受けているカメ輔に向かって、なぁ、カメ輔よ!

今の御主人様は、お釈迦様ほど崇高ではないし、頼りないところも多いが、我らカメ達は、御主人と奥さんに従うしか道はないのだぞ!と言って聞かせた。

しかし、カメ輔からは、何の返答ももらえなかった。

ザンネン!

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