
これは、今から七年ほど前の話である。
当時の吾輩は七つ、カメ輔はまだ二つで、市販の餌以外を、ほとんど口にしたことがなかった。
一般に、亀は十一月頃になると寒さのため食が細くなると言われている。
物知り顔の人間に言わせれば、
「亀は変温動物で、気温が下がると代謝が落ちて、食欲も減る」
などと、いかにももっともらしい理屈を並べる。
だが、あの年の吾輩は、少し事情が違っていた。
十月の半ば頃から、どうにも食欲がわかなくなってきたのである。
理由は主人には内緒にしておきたいが、実を言えば、市販の餌に飽きてきたのである。
七つの子亀なりに、味覚というものが芽生え始めたのである。
さて、ある日の夕餉の刻。
隣を見ると、カメ輔は相変わらず、何の疑いもなく市販の餌をパクパクと食べている。
二つという年頃は、幸せなものである。
主人は続いて、吾輩にもスプーンで餌を差し出してきた。
吾輩は心の中で、
「カメ輔と同じ物を食べさせるでない‼」
と叫びつつ、嫌々それを口に運んだ。
その様子を見て、主人は言った。
「もうそろそろ寒くなってきたから、食べなくなったんだなあ」
それを聞いた吾輩は、内心、「しめしめ」と思った。
案の定、主人は冷蔵庫から魚肉ソーセージを取り出し、ピンセットに挟んで吾輩の前に差し出した。
ふわりと、何とも言えぬ良い匂いが鼻をくすぐる。
吾輩は念のため、毒が入っていないかどうか?と匂いを嗅ぎ、一気にかぶりついた。
ああ、うまい。実にうまい。
飲み込む時間さえ惜しく、口いっぱいに頬張ったまま、次をねだったほどである。
それを見ていた主人は、苦笑しながら言った。
「寒くて食欲がないのかと思っていたらが、カメ子は、子どもなりの悪知恵をはたらかせたな!」
吾輩は、
「しまった。ばれたか」と思ったが、主人は続けた。
「人間だって毎日同じ食べ物じゃ飽きる。カメ子、わしが悪かった。これからは、時々うまいものを食べさせてやるからなぁ」
ここで吾輩は、主人に一つ、忠告しておきたい。
当時のカメ輔は、まだ二つ。
市販の餌しか知らず、未知の食べ物には強い警戒心を示していた。
だが、一度でも人間の食べ物の味を覚えてしまえば、きっと市販の餌には見向きもしなくなるだろう。
人間の食べ物は、確かにおいしい。
しかし、亀の体には良くないものも多い。
それでも一度覚えた味は、なかなか忘れられず、つい口が出てしまう。
吾輩自身も、カメ輔と同じ年頃のころは、
世の中にこれほどおいしい物があるとは知らなかったし、食べてもいなかった。
主人よ、どうか、カメ輔には同じ過ちを繰り返させないでほしい。
・・・と、ここまでは、いかにも兄らしいことを書いてきたが、
今になって白状すれば、
あの頃の吾輩は、ただ分け前を守りたかっただけの、七つの子亀であった。
カメ輔が美味なるものを語るには、まだ十年早い。
おととい来やがれ。
↑ ↑ ↑
ランキングに参加しています。
ポチっとして応援してくださいね💛
↑ ↑ ↑
ランキングに参加しています。
ポチっとして応援してくださいね💛
↑ ↑ ↑
ランキングに参加しています。
ポチっとして応援してくださいね💛
