ああ、今日も暑い1日の始まりだ。
老体(8才で?)は、暑さに弱い。
でも、今日はいつもの吾輩とは違う。
心をうきうきさせながら、あることを期待していた。
というのは、主人と奥さんが良い話をしているのを聞いて
しまったからだ。
それは、近々主人の家のお墓参りに行くという話だった。
その話を聞いて、吾輩は「やった」と思った。
もしかしたら、今日がその日かもしれない。
いつもは、吾輩より遅く目覚める奥さんが、今朝は早くから起きていて、
家の中をうろうろしているのだ。
これは、きっと、何かあるぞ!と思っていると、主人が吾輩の方にやって
来て「おい、カメ子。水替えをするぞ。そして、身体をゴシゴシ磨いて
あげるからな」と言った。
それを聞いた吾輩は「ついに、そのときが来たな」と思った。着々と、
ことが進んでいて筋書き通りの展開だ。
「なぜ?」って、決まっているじゃないか。
身体をゴシゴシされるということは、お墓参りに行くので身体を清める
っていうことだ。
主人は、吾輩をトングで掴みバケッに入れ、ベランダの床の上に下ろした
のだった。
早速、主人はペットボトルに水を入れ、その水を吾輩の甲羅にかけながら、
歯ブラシでゴシゴシと擦り始めた。
ちょっと、甲羅がむずがゆいが、それが実に快感なのだ。
吾輩のゴシゴシが終わったら、今度はカメ輔の番だ。
相変わらず、カメ輔は落ち着きがなく、のたうち回っている。
カメ輔のゴシゴシが終了した後、主人は水槽の水洗いを始めた。
その間、吾輩とカメ輔は、久しぶりに、にらめっこをして遊んでいた。
そして、吾輩とカメ輔はアゴを鳴らしながら会話を始めた。
吾輩:カリッ。カリッ。カリッ。カリッ。
(おい、カメ輔、久しぶりだな。元気にしているか?今日は、
幸せなことが起きるかもしれないよ。楽しみにしていなよ)
すると、カメ輔は相変わらず、脳天気で、
カメ輔:ふう~ん。そうなの。と答えた。
水槽の掃除が終了し、主人は、吾輩とカメ輔をトングで掴み、
水槽の中に入れ、そして、意外な行動をとった。
何と、水槽の中に水を注ぎはじめたのだ。
「えっ、どうして?これから吾輩達をお墓参りに連れて行って
くれるんでしょ。水槽に水を入れてどうするの?」
主人の不可解な行動は続き、今度は、吾輩と水が入った水槽を、
主人と奥さんで持ち上げ、どこかへ運ぼうとしたのだった。
そして、水槽を下ろした所は、吾輩が未だかつて踏み入れたことの
ない未踏の地であった。
「一体、ここで何をするの?」吾輩は首をかしげ、主人の言葉に、
愕然とした。
主人:いいか。カメ子。わしらはお墓参りに行ってくる。
しっかり留守番をしていてくれよ。ここなら、ヒンヤリして、
クーラーがなくても気持ちが良いし、(吾輩:相変わらずケチだな)
家の仏様の前で祈っていなさい。
と言ったのだった。
吾輩:え~。吾輩は留守番か?朝、奥さん達が話をしていたときから、
ずっとお墓参りに行けるのを楽しみにしていたのに、なんてこった。
吾輩は、横の水槽にいるカメ輔に向かって、話しかけた。
吾輩:おいカメ輔。こういうこっちゃ。一緒にお墓参りに行けると
思ったのに、期待させてすまんな。
すると、カメ輔は、
カメ輔:うん、いいよ。毎度のことだもの。
と答えた。
カメ輔にとって、お墓参りなんてどうでも良かったのだ。
(カメ輔はお墓参りに、まったく興味がなかったのである。)
吾輩はしばらくの間、頭の中が真っ白であった。
そして、ふと我に返り、気が付くとまた、新たな疑問が生じたのである。
吾輩:それにしても、ここはどこだ?ちょっと暗いが、涼しくて何だか
心が落ちつく所だな。
そして、最後に主人が言ったことばを思い出した。
「家の仏様の前で祈っていなさい」
とすると、水槽の向こう側には、小さいが荘厳さを漂わせる箱らしきもの
がある。もしかして、あれが仏壇というものか?今は扉を閉じているが、
その中には仏様が入っているのかも知れないな。吾輩は、先ほど主人が
言っていたことを思い出し、仏様に向かって手と手を合わせて?合掌した
のだった。しばらく仏壇に向かって祈っていると、いろいろな声がはっきり
と聞こえてきた。
お墓参りに連れていってもらえなかったのは、仏様が吾輩の不純な心に
対して罰を与えたのかもしれない。
吾輩のお墓参りは、ご先祖様に感謝を込めてということではなく、お墓参り
のついでに、ドライブを楽しむつもりだった。
今から思うと、お墓参りに行けなかったことが、かえって良かったのかも
しれない。もし、お墓参りに行っていたら、新型コロナに感染するかも
しれないし、車のドライブで、吾輩は、何時間も小さいバケッの中で揺れる
羽目になり、車酔いしていたかもしれない。いろいろ考えていると、清々しい
気持ちになってきた。これも、仏様のお導きで、ご先祖様と心が通じたのかも
しれないな。お墓参りにも行かず「不要不急の外出?」を避けるといった政府
の新型コロナウイルス対策にも協力しているし、吾輩は、なんて良い国民?
なんだろう。
今日はカメ輔と一緒に、いつ帰ってくるかわからない主人達をじっと待って
いることにしよう。
でも、そろそろお腹がすいてきた。
ご主人様、早く帰ってきてくれよ! 次回も、おもしろいよ!乞うご期待!
プロローグから第84話までは、「かめのひとりごと2」
https://iamkameko2.hatenablogs.jp/
に掲載していきますので、お楽しみに!
↑ ↑ ↑
ランキングに参加中です。
ポチッとして応援してくださいね!
↑ ↑ ↑
ランキングに参加中です。
ポチッとして応援してくださいね!