最近、主人は、吾輩たちを散歩に連れて行ってくれない。
何やらSNSとかをやっているらしく、吾輩たちにかまっている
暇がないらしい。
いささか、人間たちに対する不満が鬱積(うっせき)している。
こうなりゃ、主人が好きな吾輩のパフオーマンスもやらないよ!
今日も、吾輩が楽しみにしている、主人たちの会話が始まった。
だって、良きにつけ悪しきにつけ、人間社会を知る良い機会に
なるんだもん。まず、主人がその口火を切った。
主人:この前、SNSを見ていたら、カメが主人の布団の中で、
おねしょをして、布団のシーツが濡れている映像があった。
そして、それがバレたと思ったカメは、一目散に部屋の隅まで
逃げて行った画像があったよ。画像のテロップは「反省」だったかな。
カメも反省するのかな?反省しないから、犬畜生になったのかなぁ?
吾輩:吾輩はカメで、犬畜生じゃない。失礼なことを言うなぁ。
反省ぐらいするさ。
吾輩は一瞬、主人の言うことにムカッとしたが、その気持ちを
落ち着かせて聞いていた。
すると、吾輩のことについて語り始めた。
何だか、ヤバイことになりそうだ。
主人:ところで、カメ子はどこかで小便を※しかぶったことが
なかったかなぁ?
すると、奥さんは、間髪入れずに答えた。
奥さん:忘れたの?あれは、6年ぐらい前だったかしら?
カメ子の公園デビューのとき、あなたがいたずらをして、
カメ子を滑り台の中ほどに置いたじゃないの。
滑り落ちないように、必死に前足で踏ん張っていたカメ子も、
次第に、ズルズルと滑り落ちてしまい、途中でおしっこを
漏らしてしまったじゃないの。
カメは、上に這い上るのは得意だけれど、下に降りるのは苦手なので、
さぞかし怖かったんだと思うわ。
吾輩:ああ~吾輩の思い出したくない過去についに触れられ
てしまった。我が人生で一番恥ずかしい思い出だ。
隣の水槽にいるカメ輔に、この話しを聞かれるとヤバイことになるなぁ。
吾輩はカメ輔の前では、強い兄貴でとおっているのに面目丸つぶれだ。
今度、カメ輔に会っとき、いったいどんな顔をすれば良いのだ。
吾輩が落ち込んでいると、今度は主人が意外な言葉を発した。
主人:そうだった。そんなことがあったなぁ。
でも、それからカメ子を水槽から出して、部屋の中を徘徊させても、
おしっこをしかぶることはなかったよ。
(カメ子:ご主人様、ヤバイよ。そんな事、奥さんの前で言っていいの?
吾輩が、家の中を徘徊するのは、御法度じゃなかったの?
あとで、奥さんからお目玉をくらってもしらないよ!)
もしかして、カメ子は、「滑り台の、しかぶり事件」を反省して、
それからずっと、家の中の床ではおしっこを我慢していたのかな。
昔、わしの実家で、柴犬のタマ(雌犬、血統書付きだぞ)を飼っていた。
わしが車の後部座席にタマを乗せドライブに連れて行き、
あるホームセンターに立ち寄った。
そして、そこに、陳列してあった犬小屋の中にタマを入れ、鍵を閉め、
タマに向かって「バイ。バイ。」と言って立ち去ろうとした。
その時、タマは、捨てられると思ったのか?わしを、悲しい目で見つめ
「クーン、クーン」と泣いていた。
それを見たわしは、かわいそうになり、慌ててタマを犬小屋から出した。
そして家に連れて帰り、後部座席にいるタマを車外に出そうとしたとき、
ソファーの上にウンチが転がっていた。
タマは、怖さのあまり脱糞してしまったのだ。
いや、脱糞しただけではなく、タマは自分のウンチを食べてしまったのだ。
タマは、人間から捨てられると思い、そのショックで脱糞してしまったの
かもしれない。そして、やってはいけない所で脱糞したことに気づき、
反省をして食べたのかもしれない。
タマは、とても、頭が良く賢い犬だったからなぁ。
しばらくして、奥さんは言った。
奥さん:そうね。利口な動物は、人間と同じように反省した
り、人間が嫌がることが何かということが良くわかっていて、
嫌がることはしないのよ。カメ子もそうかもしれないね。
それにしても、カメ子を部屋の中で歩かせたらだめじゃないの。
罰として、今日のあなたの夕飯は抜き!
(カメ子:とほほ。思った通りだ。でも、奥さんは本気で
は、ご立腹してないようだ。吾輩の家の中での徘徊は、
奥さんも暗黙の了解なのかもしれない。それもこれも、今まで吾輩が、
部屋の中ではおしっこをしかぶらなかった賜物(たまもの)なのだ。
もしも、一度でも床の上でしかぶっていれば、たった、一度のメシ抜き
ぐらいではすまない。
主人は遠島(えんとう)、吾輩はおちんちんを切られるであろうな。
(おお~恐わ~)
そして、最後にいつものパターンで吾輩とカメ輔の品定めが始まった。
主人:カメ子は水槽の水の中では、食事をしながらウンチをして、
辺りに蹴飛ばす。まったく、行儀作法はなっとらん。
でも、おしっこやウンチをしてはいけない所では絶対にしない。
ウンチとおしっこのTPOをしっかりわきまえている。
ところが、どうだ。カメ輔にはそれができない。気にもしていない。
したくなったら分別無くどこでもする。たとえ家の中の床の上でも
(カメ子:えっ、そんなことがあったの?そんなこと奥さんの目の前で
言ってもいいの。ダメ出しだよ)
今回、ご主人様は、カメ輔を標的にしているようだ。
これで、吾輩がカメ輔と会っても「さすが兄貴」と、
いつものとおりリスペクト(尊敬)するだろうな。ひと安心だ。
* 山口県の方言:大小便を漏らすこと。
↑ ↑ ↑
ランキングに参加中! ポチッとして応援してね!
↑ ↑ ↑
ランキングに参加中! ポチッとして応援してね!
*にほんブログ村 カテゴリー「本」、 サブカテゴリ-「文庫」で
「カメのひとりごと」のプロローグを掲載しています。
どうぞご覧ください。