吾輩はカメである。名前はカメ子。せっかくの機会ゆえ、我が家の近況について一筆認める(したためる)としよう。
さて、吾輩の住まう家では、近頃夜がひどく明るい。否、それは単に照明の話ではない。奥さんが、夜な夜なパソコンに向かい、何やら熱心に作業をしているからである。その姿は、まるで深夜の書斎で兵法書を繙(ひもと)く軍師のごとし。眉間に皺を寄せ、鬼気迫る様相でキーボードを叩いている。無論、その影響で我が家は「不夜城」と化し、吾輩もついに慢性的な寝不足に陥ってしまった。
主人が、奥さんに声をかけようものなら、「しっ。黙って」と、まるで修行僧のように一喝する。やれやれ、主人も懲りぬものだ。奥さんの研究対象は「ChatGPT」なるものらしく、どうやらこのAI技術を活用し、副業収入を得るための指南書をKindleにて出版するつもりらしい。
副業とはいえ、その熱の入れようは並々ならぬもので、家事の合間にパソコンへ向かい、何やら忙しくしている様子である。なるほど、「ChatGPT」とは実に便利な代物らしい。例えば、冷蔵庫の中にある食材の写真を撮影し、それをChatGPTに添付すれば、健康面に配慮した最適な献立を即座に提案してくれるという。
旅行の計画を立てる際にも、費用を抑えつつ最大限楽しめるルートを弾き出してくれるし、さらには人生相談にまで応じるという。かくして、奥さんはますますAIの虜になり、ついには家庭内においてもその存在感を増していった。
一方、主人はといえば、いつの間にやら、奥さんの仕事のアシスタントに収まっていた。それまでは家事を手伝っていたはずだが、どうやら「役立たず」の烙印を押され、自然とこの道へと進むこととなったらしい。或いは、主人が家事の苦手さを逆手に取り、わざと「使えぬ夫」を演じて新たな職を得た確信犯である可能性すらある。何とも策士なことよ。
さて、そんな折、吾輩の隣の水槽からカメ輔がぽつりと呟いた。
「カメ子兄さん、人間というものは、実に単純で面白いですね」
カメ輔は吾輩より五つ年下の若造であるが、最近は主人や奥さんの使っているパソコンを覗き見し、日本の経済や株式市場について学びを深めているらしい。そして、ついには吾輩の学力を超えたと豪語するようになった。ふむ、なかなか侮れぬ。
その時、我々の間に一つの影が差し込んだ。ユッカ姉さんである。
「カメ輔、学問に熱心なのはいいが、人間の愚かしさばかり見ていても仕方がない。人間も一生懸命生きているのだよ」
ユッカはこの家の観葉植物で、吾輩よりも長くここに住まう長老のような存在である。かつて「ドラセナ」という美しき友を寒さで失い、その時、ユッカ自身も死にかけた。だが、主人と奥さんが懸命に世話をしてくれたおかげで、こうして今もここにいる。以来、彼女は主人と奥さんに深い敬意を抱くようになった。
彼女は言う。
「人もカメも、そして植物も、それぞれ役割がある。それをAIがどう変えるかは分からぬが、大切なのは、どんな時代になっても思いやりを忘れぬことだよ。二人は私を救ってくれた。だから、私は二人を信頼している。
ふむ、なるほど。吾輩は甲羅をゆっくりと擦りながら考えた。AI革命が何をもたらすかは分からぬ。しかし、奥さんや主人がそれによって互いを思いやる心を忘れぬ限り、悪い話でもなさそうだ。
それにしても、最近の主人と奥さんの様子を見る限り、いずれは吾輩もAIを学ばねばならぬ時が来るやもしれぬ……。
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