3月のある日、吾輩とカメ輔がベランダで遊んでいると、突然、ユッカがカメ輔に話しかけてきた。
吾輩は、2人の会話をそっと聞くことにした。
ユッカ:ロシアがウクライナに侵攻したらしいよ。両国は兄弟の国らしく、私のような植物には考えられないことだわ。だって、植物は他の生き物とは争わないし、私達は、それぞれ自分の使命をもってこの世に生まれ、使命が達成されれば死んでいくの。
私のような観葉植物は、人間の手で作られ、人間に癒しを与えることが使命なのよ。
この地球上の生き物の頂点に君臨し、最も強く、理性のある人間が同じ人間を殺すなんて、どこかの国の殿がご乱心したのかもしれないね。
すると、日頃、おとなしいカメ輔が喋り始めた。
カメ輔:カメは、仲間同士はもちろんのこと、他の動物とも命を落としてまで戦うようなことはしない。
主人が言っていたが「カメは小心者でのろま、そして、何も武器も持っていない。
(歯もないし鋭い爪もない。あるのは硬い甲羅だけ)
カメは、すぐに絶滅してしまいそうだが、この習性と形態だから、生き残っているそうだよ。
だって、小心者で臆病だから、岩の隙間に隠れてじっといるので、敵には見つからない。そして、見つかったとしても、自分から先に、敵に攻撃するようなことはしない。(これを主人は、専守防衛だと言っている。相手が攻め込んできた時は、顔を甲羅の中に引っ込めて敵が立ち去るのをじっと待っている。)
僕も、人間は、理性なんてない生き物だと思うよ。
そして、カメ輔の話を聞いていた吾輩は、含み笑いをしながら2人の会話に割り込んだ。
カメ子:カメ輔は、「専守防衛」とか、「理性」の言葉の意味がわかっているようだね。
でも、「人間は理性がない」なんて簡単に言わないでよ。
人間は好き好んで、人間を殺すなんてしないと思う。
おそらく、何らかの利害関係がぶつかって争っていると思うよ。
それは、何であるか?ワシは、勉強不足でよくわからんがね。
それにしても、我らカメ族には、自分達を守ってくれる国がない。
もし、敵が攻撃してきたら、自分の命は自分で守らなくてはならない。
だから、主人や奥さんが必要なんだ。この前の出来事※1を思い出してくれよ。
カメの天敵であるカラスが、突如頭上に現れ、襲ってきたとしたら、自らの身は自らで守るしかない。
そして、主人と奥さんが助けに来てくれるまで、専守防衛で戦うしかないんだ。
だから、安易に人間のことを理性がないなんて言ってはいけないよ。
すると、吾輩が言っていることをジッと聞いていたユッカが話し出したのである。
ユッカ:そうかもしれないわね。
私の場合、2度も奥さんから命を助けてもらったし※2、ここにいる、キャべッジ君やハクサイ君、そしてニンジン君は、奥さんが蘇えらせてくれた。
奥さんと主人には、とても感謝しているわ。
でも、人間は、地球上で最も賢く、頼もしいが、時として理性を失うことがあることも事実だわ。(手厳しい)
そして、3人で会話をしている最中に、吾輩とカメ輔を厳しい現実の世界に引き戻す発言がユッカから飛び出した。
ユッカ:戦争で当分の間、ロシア産の小麦粉、サケ、カニは食べられないかもしれないわね。
それを聞き、吾輩は一瞬、茫然とするとともに、この侵攻はもはや他人事ではないことに気づかされたのだ。
それにしても、ユッカの人間社会の情報を吸収しようとする姿勢には感服したよ。
「カメの甲より年の功」だね。
(いつもはプライドの高いカメ子にしてみれば、今回は珍しく負けを認めました)
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【後記】
いやはや、カメ輔がこんなに人間の言葉を理解しているなんて、びっくりしました。
ところで、前章で、カメ子がカメ輔に「お前、主人をどう思っているんだ?」と聞いたとき、カメ輔はこう答えたそうです。
カメ輔:人間の言葉はだいぶ前からわかっていたよ。
そんな中、主人は僕のことを、不細工とか小心者とかと言って、からかっていた。
それを聞いて、僕はショックを受け傷ついた。
でも、そのことで僕は、主人を嫌いになったんじゃないよ。
ただ、あの時はショックで、顔を甲羅の中に入れて泣いていたんだ。
カメ子は、この発言を聞いた時から、カメ輔を子供扱いせず、大人として扱うようになったようです。
カメ輔の発言に、カメ子が含み笑いをしたのも、そう言った気持ちがあったのかもしれませんね。
最後に、ウクライナに侵攻したロシアが速やかに撤退し、これ以上尊い人命が失われることがないよう、お祈り申し上げます。
そして、今こそ、人間の英知が試されるときです。
地球上の他の動物は注視していますよ。
※1:第137話 航行の自由作戦【カメのひとりごと】
※2:第133話 黄泉がえり【カメのひとりごと】