普段、吾輩はモデルの仕事が終わった直後、バスケットに入れられ、水槽の中に戻されるのであるが、今回は少し違っていた。奥さんは、しばらくの間、吾輩を床に置いたまま自由に遊ばせてくれたのである。
吾輩は、「これは撮影が上手くいったご褒美かもしれないなぁ」と思った。
吾輩は、今まで心に秘めていた未知の世界を探検してみたいという気持ちがムラムラと湧いてきた。
すると突然、吾輩の右側から「こっち、こっちにおいで」と呼ぶ声が聞こえてきたのである。
吾輩は、声が聞こえる壁の方に向かって進んで行き、見上げた。
そこには、大きな写真のパネル(100×50cm位)が3枚飾られていたので、吾輩は、それを覗いてみた。
すると、吾輩の脳裏に、ある日の出来事が浮かんできた。
それは、奥さんと主人が、奥さんの写真の先生が撮った写真について批評していたときのことである。※1。
吾輩は、パネルのすぐ近くまで寄って行き、首を大きく伸ばして、じっくり写真を見ることにした。
しばらくして、いつものように、ひとりごとを言った。
カメ子:この3枚の写真は、先生が気に入っていた写真らしいが、吾輩も素晴らしいと思う。
まず、1枚目の写真は、世界遺産に登録された長崎県の軍艦島を写した物だが、建物と建物の間で光り輝いている太陽光が実に良いね。やはり、写真は光と影が大切だね。
その横の写真は、どこを写したものだろう。
この写真は、足で櫓をこぎながら船を操縦している、カンボジア王国の女性の写真だ。これも良いね。
でも、どこが良いかって?先生自身がお金をかけて、カンボジア王国まで撮影に行ったところだね。
そして、一番奥の写真も良いね。
これは、どこかの湖にあるボートが動くときにできた波紋を写した写真で、波の模様が芸術的だね。
すると、吾輩の様子を見ていた奥さんが、こう言ったのである。
奥さん:あれ、カメ子が写真を観ているわ。へぇ~写真に興味があるのかなぁ?あっ、そうだ。
何故だかわからないが、急にカメ子の前世だったかもしれない、私のお爺ちゃんのことを思い出したわ。※2
お爺ちゃんは、バイオリンやウクレレが好きで、よく弾いていたのよ。もしかして、カメ子もお爺ちゃんに似て、芸術に興味があって、センスが良いのかもしれないわ。
お酒を飲みながら、YouTubeの音楽を聴いて踊っているあなた(主人)を見て、カメ子も上手にダンスを踊っているわね。それに、お爺ちゃんは、確か、血液型がBだったわ。だとすると、カメ子の血液もB型かもしれないし、写真に興味があってもおかしくはないわね。だって、B型の人って、音楽家や写真家、モデル等でも才能を発揮し、大成している人が多いものね。(カメ子のモデルの才能は、どうも奥さんの祖父に由来しているようである)
吾輩は、プライドがくすぐられ、「なるほど、なるほど」とうなずきながら心地よく奥さんの話を聞いていた。
すると、突然、奥さんが、吾輩の慢心した心を打ち砕くような話を始めたのである。
奥さん:もしかして、カメ子は、カメ子にしかない独特な感性で写真を批評しているかもしれないわ。
先生は、私に「一番手前の写真は、建物と建物の間に太陽の光があたって、光り輝いている様子をうまく写さないといけない。写真は光と影が大切だ。それがわかるようになったのは、一歩成長したなぁ」
その次の、足で櫓を漕ぎながら船を操縦している女性の写真だけれど、「お金をかけて、わざわざカンボジア王国まで撮影に行ったんだ。それ自体が、とても価値のあることなんだ」とも言っていたわ。
そして、カメ子の目の前にある写真は、「湖面をボートで移動している時にできる波紋の模様が芸術的で素晴らしい」と言っていたわ。
果たして、カメ子は、どんな感性で先生の写真を批評するのでしょう。
奥さんがしゃべっている間、主人は、以前にも聞いたことがある話なのか、うんざりした様子で、ただ、「うんうん」とうなずいているだけだった。
吾輩は、奥さんの話を聞いた途端、「ヤバイ」と思った。
先生が自らの写真を批評しているのを、まるで、吾輩が批評しているかのようにつぶやいてしまったのだ。
吾輩は、読者の皆様に嘘をついてしまい、大変申し訳ないことをしてしまいました。読者の皆様、ごめんなさい。
ああ、穴があれば、入りたい。今は、そんな心境である。
そして、吾輩は、なるべく奥さんと目を合わせないように、写真の前からそっと離れ、あるところに突き進んで行ったのである。そして、それを見ていた、奥さんは、言った。
奥さん:カメ子が自分からバスケットに入るなんて、珍しいわね。何かあったの?
【後記】
その真偽はわかりませんが、カメの血液型は、ほとんどがB型だそうです。カメは同じ種類でも、それぞれが個性的でマイペースな行動をとるので、そう見られるかもしれません。さらに、B型の人は、何事にも好奇心旺盛で、こだわりが強く独自の世界観を持っていると言われています。B型のカメさんが、芸術に興味を持っていてもおかしくはないですね。
将来、カメ子は、カメ子独自の感性で、これらの写真を批評することになるでしょう。
読者の皆様へ、
その時が来るまで、しばらくの間、お待ちくださいね!
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※1:第123話 趣味
※2:本【カメのひとりごと】の「あの世」で掲載中