さて、本日は「思いやり」について一筆したためたいと思う。
吾輩は、主人と奥さんの家で、恙無く(つつがなく)毎日を過ごしている。
だが、最近、主人が慢性副鼻腔炎とアレルギー性鼻炎を患い、通院を余儀なくされているようである。
そんなある日の午後、主人はいつものように病院から帰宅した。
帰宅するなり、いきなり奥さんに話しかけた。
「今日の病院は、子供がとても多く待合室は、ちびっこたちで溢れかえっていたよ。診察室からは、大きな声で泣き叫ぶ声が聞こえ、ある男の子は、診察室に一緒に入ったお父さんに、『お父さん助けて!』なんて叫んでいたんだよ。その一方で女の子は、診察中は泣いてはいたが、診察が終わるとすぐにピタリと泣き止んでいた。大人の女性もそうだが、やはり女の子の方が肝が据わっているようだ。
さらに、主人は続けた。
「わしが、待合室で会計を待っていると、治療を終えたばかりの3歳ぐらいの女の子と目が合った。その女の子は、目にいっぱい涙を浮かべていたが、わしにこう言った。『おじちゃん、頑張ってね』って。まだ、小さいのに自分の痛みに耐えながら、他人を思いやることができるなんて本当に驚いたよ。」
奥さんは、苦笑しながら呆れたような口調でこう言った。
「それに比べて、あなたは、『苦しい』だの『しんどい』だのと弱音ばかり吐いているじゃない。あなたより、その女の子の方が、よっぽどしっかりしているわ。それに、人に対する思いやりだって、あなたよりあるじゃない」
主人は、ムカついたので、奥さんに言い返そうと思ったが、怒らせると仕返しが怖いので、その言葉をぐっと呑み込みこんで我慢した。そして、自分が、今までやってきた行いについて思い返してみた。
主人には、弟が1人いる。 弟が中学生の頃、主人と同じ病を患っていた。
いつも、主人は弟に向かって冗談半分に、「ちくのうにょう♪、あ、ちくのうにょう♪、お前の鼻は、ちくのうにょう♪」と囃し立て、弟をからかっていた。そのときの弟の悲しそうな顔が、今でも脳裏に焼き付いて離れない。
「あのときの俺は、人に対する思いやりがなかった。弟には、本当に悪いことをしたと反省している」
これが本当の「主人のひとりごと」だ!
そして、思いはカメ輔にまで及んだ。幼い頃、カメ輔が、「ヒューヒュー」と奇妙な音を立てて鳴いていたことがある。主人はそれを風邪か蓄膿症に罹ったのだろう。と安易に考え、水槽にお湯を入れて温めれば、すぐに、良くなる。と考えた。しかし、症状は悪化するばかりだった。
「今から思うと、カメ輔の鼻に水が入り、口呼吸しかできなくなってしまい苦しがっていたのだ……。」
主人は、カメ輔の水槽の前に立ち呟いたが、カメ輔は、何も言わなかった。ただ、甲羅の中に頭を入れ、じっと主人の話を聞いているように見えた。
「わしは、今まで、本当に相手に対する思いやりの気持ちが足りなかった……。」
主人は、「ひとりごと」をぽつりと呟いた。
「このことを小さな女の子が、気づかせてくれたなんて、本当に情けない。でも、これからはちゃんと相手の気持ちを考えようと思う」
そう言いながら、主人はカメ輔の前足をじっと見つめた。そして、1部分が白く変色していることに気づき、心配そうな顔をした。
カメ輔「痒いだろう?すぐに治してやるからな」と言った。
その声は以前よりも少し優しく、そして力強かった。
翌朝、吾輩は水槽越しに主人を見つめた。主人はいつものように鼻をすすりながら、水槽の水替えをしてくれていた。そして、その表情には少し変化がみられた。あの小さな女の子の言葉が、主人の心に刺さり、何かしらの変革をもたらしたのであろう。
吾輩は、「早く病気が治り、以前のように愉快で楽しいご主人様に戻ってほしい」と願った。
こうして、吾輩とカメ輔の平凡で幸せな日々は、今日も静かに流れていくのである。
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