カメのひとりごと

ニホンイシガメのカメ子が、カメ目線でとらえた人間社会をおもしろおかしく書いています。

第110話 刎頸(ふんけい)の友 Part2

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  主人は、吾輩を透明な水槽の中に入れ、

元居た場所まで戻った。

そして、吾輩を地面の上にそっと置き、

一人残して、近くにある石造りのベンチに座った。

しばらくすると、奥さんが撮影場所から戻って

来て、主人に何か食べ物を渡し

「このコッペパンをちぎって、あなたの前に撒

いて」と言った。

主人は、いつものように奥さんから言われるが

まま「はいよ!」と返事をし、自分が居る前に

食べ物をバラ撒いたのである。

すると、それを待っていたかのように、右上空

から、謎の飛行物体が地表に降りてきた。

吾輩には、それが、羽が生えた生き物のように

見えた。

そして、主人が、その生き物に向かって、

「おおっ、鳩吉じゃないか?久しぶりだなぁ」

と、言葉を発していた。

それを聞いて、吾輩は、あれっ、どこかで聞い

たことがあるような言葉だなぁ。

でも、何だったのか?

どうしても、思い出すことが出来なかった。

鳩吉は、主人がちぎって投げたコッペパン

黙々と食べ続けていた。

でも、鳩吉の食べる速度が非常に早く、コッペ

パンを撒くペースが追いつかない状態であった。

それを見かねた奥さんが、遂に「あなた、

そんなに小さくちぎってあげてもダメよ。

もっと、大きくちぎってあげなさいよ」と、

吠えたのである。

主人は、そのアドバイスを素直に聞き、

今度は、大きくちぎって撒いた。

そして、鳩吉は、これにもひるまず、

おちょぼ口で大きなコッペパンを頬ばっては、

ドンドンと食べ続けたのである。

誠に惚れ惚れするような、素晴らしい食いっぷりであった。

吾輩は、「かわいそうに、よっほど、お腹が空

いていたのだろうなぁ」と思った。

10分ぐらいして、食事タイムは終了したが、

鳩吉は、まだ物足らないようである。

そこで、さらに、コッペパンはないかと、辺り

を探し、何か変な塊の生き物を発見した。

それが、吾輩である。

勘の鋭い鳩吉は、すぐに吾輩のことを思い出し

たようだ。

そして、鳩吉は、吾輩に近づき、衝撃的な言葉

を発したのである。

鳩吉:よおっ、久しぶりだな。元気だったか?

また、一段と太ったようだな。3食昼寝付き

だから、そうなるんだよ!

見ろよ。俺が食べ残したコッペパンを1羽の

カラスが食べているだろう。

そして、カラスの後ろで10羽のスズメが食べ

残しを狙っている。

さらに、その後ろで、何だかわからない、

正体不明の鳥が食べ物を狙って待機している。

みんな、その日に食べ物にありつけるか、毎日

が真剣勝負なんだ。

温室育ちのお前には、そんなことがわからんだろうなぁ?

鳩吉の能書きが終わり、話の中の「久しぶりだ

な」という言葉が妙に引っかかった。

「なんで、初対面で、どこの馬の骨だかわから

ない輩(やから)から、そんなに糞味噌

(くそみそ)のように言われなきゃならないんだ」

と鳩吉に対して、憎悪の念が出てきたのである。

ところが、吾輩の様子を見ていた鳩吉は、その

一瞬の表情を見逃さず、追撃の手を緩めなかった。

鳩吉:おう、鳩が豆鉄砲食らったような顔をし

ているな。

もしかして、俺様のことを忘れたのか?そうだ

ろうなぁ。

お前は、人間様に守られていて、敵から襲われ

る心配もない。

俺の後ろを見ろ。

俺がこっちに来て、カラスは、ようやく、俺の

食べ残しを食べるようになっただろ。

でも、カラスの後方では、スズメが食べ物に

ありつけるのを待っている。

そして、スズメの後方に、得体の知れない鳥た

ちがいる。

なぜ、それぞれが、間隔を空けて待っているか

わかるか?

それは、みんな、飢餓状態の中で、お互い、

襲われないように間隔を空けているんだ。

お前には、そんな心配はいらないだろう。

だって、人間様が守ってくれているからな。

だから、お前の頭はいつもお花畑なんだよ!

吾輩は、ついにダメ出しの「お前の頭はいつも

お花畑」にブチ切れてしまった。

初対面からこんなにバカにされたのは、今まで

の人生でたった一人しかいなかった。

「あれっ、待てよ。それは、鳩吉だ。それと

よく似た輩が目の前にいる」やっと、思い出した。

目の前にいる輩は、昔どこかの公園で会った

鳩吉だ‼

そして、あの公園は、ここだったのか?

吾輩は、ようやく謎が解けた。

すると、吾輩の表情が変化したことを察知した

鳩吉は言った。

鳩吉:ようやく、わしのことを思い出したよう

だな。  

その瞬間、これまで鳩吉が吾輩に投げかけてき

た毒舌に対する怒りが消え失せてしまったのである。

そして、鳩吉の存在が懐かしく思えるように

なり、初めて出会った時のことが、走馬灯のよ

うに浮かんできた。

あの時は、相手の生活を理解できず、けなしっ

ぱなしで、殴り合い寸前までいった。

でも、話し合いをする中で、お互いの気持ちを

認め合うことができ、最後は、鳩吉から主人や

奥さんの大切さを教えてもらった。

(詳細については、【カメのひとりごと】の本

【素敵な出会い】を参照してください)

もしも、鳩吉との出会いがなかったら、主人や

奥さんに対して、恩知らずのただのカメになっ

ていたに違いない。

このことに気づかせてくれたことは、たいへん

ありがたいことである。

鳩吉は、本当の「刎頸の友」に違いない。

しばらくの間、吾輩と鳩吉は、人間にはわから

ない、不思議なテレパシーで会話をしたが、

遂に、別れの時がやってきた。

そして、鳩吉が言った。

鳩吉:そろそろ、おさらばする時が来たよう

だ。おまえも元気でなぁ!

吾輩が、「また、会おう」と言うと、鳩吉は

こう言った。

鳩吉:生きていればな。俺は、お前ほど長生き

できないかもしれない。

「鶴は万年。カメは万年」と言うが、ワシは、

せいぜい生きられても10年ぐらいだからな。

あと、何年生きることができるのか?って、

そんなことは、仏様以外、誰にもわからないよ。

だって、今の自分の年齢がわからないのだから

なぁ。

この後、鳩吉は、右上空へ飛び去って行ったの

である。

何て、ニヒルな奴‼ 

彼は、吾輩の「刎頸の友」である。

 

※:お互いのためなら首をはねられても悔いの

  ない、堅い友 情で結ばれた友。

  生死を共にするほどの親密な間柄の友。

 

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